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福岡地方裁判所 平成6年(ワ)1949号 判決 1998年3月25日

原告

白橋眞喜

右訴訟代理人弁護士

村山博俊

清水隆人

被告

学校法人中村産業学園

右代表者理事

楢崎健次郎

右訴訟代理人弁護士

俵正市

坂口行幸

重宗次郎

寺内則雄

苅野年彦

小川洋一

主文

一  原告が被告の設置する九州産業大学の教授の地位にあることを確認する。

二  被告は、原告に対し、金四七三四万四六〇一円並びに内金五二四万七七七〇円に対する平成六年三月二六日から支払済みまで、内金一一一〇万七七七七円に対する同七年三月二六日から支払済みまで、内金一一〇九万九七七七円に対する同八年三月二六日から支払済みまで、内金一一〇九万四七七七円に対する同九年三月二六日から支払済みまで及び内金五三〇万三六三〇円に対する同九年一〇月二六日から支払済みまで、それぞれ年五分の割合による金員を支払え。

三  被告は、原告に対し、平成一〇年二月から毎月二五日限り月額金五八万二三〇〇円宛の金員を支払え。

四  原告のその余の請求を棄却する。

五  訴訟費用はこれを一〇分し、その二を原告の、その余を被告の負担とする。

六  この判決は、第二項及び第三項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  主文第一項と同旨

二  被告は、原告に対し、金四七〇九万四一〇一円及び内金五二四万七七七〇円に対する平成六年三月二六日以降、内金一一五九万四八六七円に対する平成七年三月二六日以降、内金一一六五万五四四七円に対する平成八年三月二六日以降、内金一二三三万七九四七円に対する平成九年三月二六日以降、内金六二五万八〇七〇円に対する平成九年一〇月二六日以降各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告は、原告に対し、平成九年一一月以降毎月二五日限り月額金六五万〇七〇〇円宛の金員並びに毎年一二月末日限り金一九四万二三三〇円、同三月末日限り金八五万四〇四七円、同四月末日限り三三万二〇〇〇円、同七月末日限り金一三七万一一七〇円をそれぞれ支払え。

第二事案の概要

本件は、被告が、その設置する九州産業大学の教養部教授の地位にあった原告に対し、平成五年一〇月一八日付で懲戒解雇する旨の意思表示をなしたところ、原告が、右懲戒解雇は事実誤認、手続的瑕疵又は解雇権の濫用により違法・無効であると主張して、被告に対し、原告が九州産業大学の教授の地位にあることの確認を求めるとともに、毎月の給与並びに夏期、冬期、春期及び入試の各手当の支払を求めている事案である。

一  争いのない事実

1  当事者

被告は、九州産業大学、九州造形短期大学等の学校を設置する学校法人であり、原告は、昭和四一年三月福岡学芸大学教育学部を卒業後、同年四月九州産業大学教養部助手として採用され、同四五年四月講師、同五〇年四月助教授、平成元年四月に教授にそれぞれ昇格し、現在に至っている。また、昭和四一年四月以降同大学バスケットボール部監督に就任して指導に当たっていたが、平成五年四月二日、右監督を辞任している。その他日本学生バスケットボール連盟理事、福岡県バスケットボール協会常務理事等を歴任した。

2  本件懲戒解雇の内容

被告は、原告に対し、平成五年一〇月一八日付で左記の事由(以下「本件懲戒解雇事由」という。)により原告を懲戒解雇する旨の意思表示をした(以下「本件懲戒解雇」いう。)。右の際、被告は、原告に対して、解雇予告手当を支給したが、原告が受領を拒否したため、被告において右解雇予告手当相当額を供託している。

「あなたは、九州産業大学教養部教授の地位にあり、かつ、平成五年四月二日まで九州産業大学バスケットボール部監督の地位にあった者であるが、大学の正規の職制の承認を得ることなくその地位を乱(ママ)用して、次のような行為を行った。

1 自己の所有する土地建物を学生寮とし、バスケットボール部を全寮制として部員学生全員を入寮させた上、自己の定めた不当に高い寮費を徴収し、寮費の一部でその買い受けに要した借入金の返済をする方法で前記土地建物を取得し、勤務を利用して正当でない利益を収得し、

2 部員学生に多額の部費を課し、そのノルマとしてアルバイトをさせ、アルバイト収入がノルマに満たない部員学生にはこの不足分を父母に負担させた。また、部員学生を自己の斡旋した就労先に就労させ、これによって学生の得た労賃をあなたが直接受け取った。しかも、部費の運用について、自己の経営する学生寮の経費に一部費消したり、自己の所有する自家用車の経費に一部費消するなどの公私混同の行為を行い、

3  大学学友会の予算の中から、架空の見積書、納品書で不当に金を受け取って自己のものとし、

4  特待生に決定した部員学生に対して、大学から修学費免除の措置として学生個人に返却される初年度修学費について、学生に指導して学生又は父母名義の預金口座を設定してそこに振込みを受けさせ、振込みを受けた銀行通帳と登録済み印鑑をあなたが管理し、預金を部の運営費にあて、大学が設けた特待生制度の理念を無とする行為を行い、

5  卒業後逝去された部員OBのご遺族の寄付によって設立された学友会バスケットボール部基金について、運用規則を作成せず、記帳もしないままこれを自ら管理し、かつ、留学生の修学費や生活費の一部に充てるという名目で同基金の一部を自己のものとし、

6  選手確保の目的のため、大学又はバスケットボール部のどの機関にも承認を得ずして、留学生に対して、恣に学費及び授業料を負担させないとの約束を行い、それらの学生に要する経費を自己の管理する前記基金の中から支出して職制を無視し、

7  あなたの妻が経営する有限会社北斗商事が販売する健康食品を部費で恒常的に購入し、かつ、大学内で公然と健康機器や健康食品の販売活動を行って営利事業を営んだ。

これらの職権を乱(ママ)用し、職制を乱し、公私を混同して不当な利益を得た行為や、教育者として適格性を欠く行為によって、あなたは、学園の秩序維持に著しく支障を生ぜしめ、また、バスケットボール部部員学生及び父母の不満を買い、学園の名誉を傷つけた。

以上の行為は、就業規則第三条、第二四条に違反し、第五一条第五号、第六号、第八号、第一〇号に該当し、その情において重いものがある。

さらに、あなたは、大学当局から禁止されていたにもかかわらず、平成五年四月の監督辞任後もバスケットボール部員に接触するなど、部員学生に無用の混乱を生ぜしめた。このまま放置すれば、部員学生に大いに迷惑がかかることが予想されるので、あなたを学園の職員にとどめておくことができない。

よって、ここに予告手当を支給して即時解雇するものである。」

3 原告の賃金

原告は、本件懲戒解雇当時において、被告から、給与として月額五八万二三〇〇円(本俸五三万九三〇〇円、扶養手当二万八〇〇〇円、住宅手当一万五〇〇〇円)を支給されていた。

二  争点

1  本件懲戒解雇事由の存否

(被告)

(一) 懲戒事由1について

原告は、北斗荘を敷地とともに約三五〇〇万円で購入し、バスケットボール部を全寮制として部員全員を右北斗荘及び同部OBである訴外佐原安俊の経営する浜男寮に入寮させた。

原告は一部屋六畳の北斗荘に二段ベッドを置いて二人一部屋とし、月額五万九〇〇〇円(栄養費三〇〇〇円及び電気代三〇〇〇円を含む)を寮費として自ら決定して徴しているが、右寮費は大学周辺の下宿代に比して格段に高額である。

北斗荘購入に際しての三〇〇〇万円の銀行借入は、七年後の昭和六〇年に原告によって完済されており、同人は北斗荘によって多額の利益を得ている。

以上のとおり、原告は自己の所有する寮に学生を入寮させ、土地建物を取得できる程度の高額の寮費を徴収したものであり、右行為は被告の就業規則(以下「本件就業規則」という。)三条(「従業員は本規則をはじめ学園の諸規則を遵守し、公私の別を明らかにして、職制に従って学園の秩序を維持し、互いに人格を尊重し、共に協力して各自の職責を遂行し、もって本学園の建学精神に基づく本事業の高度達成に努めなければならない。」)及び二四条(「従業員は学園外の業務に関し、役員、顧問若しくは使用人等の職を兼ね、又は営利事業を営んではならない。但し、勤務に差し支えなく、理事長が許可する場合はこの限りではない。」)に違反し、同規則五〇条六号(「職権を濫用し、職制を乱し、職務を怠る等の行為があったとき。」)、五一条五号(「業務上の横領、その他背任の行為、不正不当の金品の授受等、勤務を利用して正当でない利益を収得したとき。」)又は同条一〇号(「その他前各号に準ずる行為のあったとき。」)に該当する。

(二) 懲戒事由2について

バスケットボール部の部費は入部金が五万円、年額部費が平成二年度は一〇万円、平成三年度以降は二〇万円であり、その決定は原告が独断で行ったが、右部費が不当に高額であることは、原告が部監督を退任後、平成五年度の年額部費を部員が自主的に計算したところ、八分の一である二万五〇〇〇円となったことからも明らかである。

原告は右年額部費の支払に充てるため、部員学生の中からアルバイト主任を命じ、これを介して毎年二月から春休みの約一か月間、部員学生をバスケットボール部OBの就職先、原告の知人の経営する会社等、自己の斡旋した会社に就労させたほか、臨時のアルバイトをさせ、その労賃を直接雇用先から又はアルバイト主任を通して受領し、管理した。

原告は、右のようにして領収した多額の部費を自己の経営する北斗荘の電気代、水道代等の経費に一部費消したり、自己の所有する自家用自動車の軽油代等の経費に一部費消するなど公私混同の行為を行っている。

原告は通常必要とする部費の範囲を超えて高額の部費を徴収し、その一部を私用に費消したものであり、原告の右行為は就業規則三条、二四条に違反し、同規則五一条五号又は同条一〇号に該当するものであるところ、高額の部費を課したため、部員がアルバイトをせざるを得ない状況を作り出し、学生の学業専念を妨げたことはその情において重いものがある。

(三) 懲戒事由3について

平成四年度バスケットボール部の学友会備品費予算は四三万円であったが、原告は、部マネージャーに指示して運道具店から架空の見積書と納品書を発行させ、これを学友会執行部に提出させて執行部から四三万円全額を受領させた。

右四三万円のうち、原告が部の備品費として実際に支出したのは、テープ、スプレー等僅少の額に過ぎず、その大部分を原告が領得した。

右行為は就業規則三条に違反し、同規則五一条五号又は同条一〇号に該当する。

(四) 懲戒事由4について

被告が特待生に決定し、修学費が免除される学生については、納付済みの初年度修学費が還付されるが、原告は、学生を指導して学生又は父母名義の預金口座を設定させ、そこに返却される初年度修学費の振込を受けさせ、原告が銀行通帳及び登録印鑑を保有する方法で、部員学生の預金を管理しながらこれを部の運営費にあて、大学が設けた特待生制度の理念を無にする行為を行った。

右行為は就業規則三条に違反し、同規則五一条八号(「他人に対する暴行、脅迫、教唆、煽動、その他学園の秩序維持に相当の支障ありと認められる行為のあったとき。」)又は同条一〇号に該当する。

(五) 懲戒事由5について

第一八期卒業生バスケットボール部OB矢野宗男氏が事故で逝去したあと、その両親が部の強化のために使って欲しいとして三〇〇万円を寄付し、これが学友会に属するバスケットボール部矢野基金となったが、原告は、同基金について運用規則を作成せず、記帳もしないまま、恣意的にこれを管理していた。

原告の右行為は就業規則三条に違反し、同規則五一条五号、同条六号(「刑法上の罪を問わないもので、懲戒解雇を適当と認められるとき。」)、同条八号又は同条一〇号に該当する。

(六) 懲戒事由6について

大学への入学は法令の規定により「教授会の議を経て、学長がこれを定める。」(学校教育法施行規則六七条)とされているところ、原告は教授会の議も経ず、学長の承諾もないのに、選手確保の目的のために、恣に学費及び授業料を負担させないとして留学生の受入れを約束し、それらの学生に要する経費を自己の管理する矢野基金から支出した。

右行為は就業規則三条に違反し、同規則五一条八号又は同条一〇条に該当する。

なお、原告は現在留学生の生活費を負担しないため、学園がこれを負担するのやむなきに至り、学園に対して損害を与えており、この行為は就業規則五一条六号又は一〇号に該当する。

(七) 懲戒事由7について

原告は同人所有の土地上に昭和五五年三月三一日店舗住宅を新築し、同五六年二月一九日、原告名義で所有権保存登記をした。右店舗住宅において原告の妻を代表者とする有限会社北斗商事が健康機器の販売等の営業を行っている。

原告は学内教職員並びに部員の親及び親族に対し、右会社の取り扱うスポーツキャンディー、健康機器、浄水器、「不思議パワー水晶玉」等の購入を勧誘し、納品と金銭の収受を自ら行っている。

また、原告は、右健康食品代として平成四年度中に合計二七万九〇〇〇円を部費から支出した。

原告は、自己の妻の経営にかかる会社が販売する健康食品を部費で恒常的に購入し、かつ、大学内で公然と健康機器や健康食品の販売活動を行って営利事業を営んだものであり、右行為は就業規則三条及び二四条に違反し、同規則五一条八号又は一〇号に該当する。

(原告)

(一) 懲戒事由1について

就業規則五一条五号に該当するためには、そもそも原告において業務上の横領背任等の刑事犯に該当する具体的行為がなければならないところ、本件土地建物は原告の所有であってそれを寮として学生を入れ、寮費を徴収することは寮費の高い安いにかかわらず所有権を行使しているにすぎず、この行為が業務上横領や背任、その他刑事法に違反する行為ということは到底考えられない。

「正当でない利益」とはかかる刑事犯としての行為の結果、行為者に帰属した果実をいうのであるから、そもそもそのような行為自体が存在しない本件の場合は五一条五号には該当しないというほかはないのである。

更に、同号の「勤務を利用して」にいう「勤務」とは、教職員の本来の労働の本旨をいうところ、監督は学友会より委嘱されるにすぎず、原告は監督としての活動に対して被告から何らの報酬も受け取っていないのである。よって、勤務を利用してとの要件も充たすものではない。

(二) 懲戒事由2について

被告のいう部費はバスケットボール部が遠征に行ったりする旅費や食事代等を除外しており、比較の対象にならない。

また、懲戒事由五一条五号は業務上横領や背任等の刑事犯としての行為を前提とするところ、被告の言う「通常必要とする部費を超えて高額の部費を徴収したこと」は刑事犯的行為を構成しない。

更に、被告は、原告が「部費を徴収した」というが、徴収はバスケットボール部のマネージャーやアルバイト主任が行うのであり、原告は事故防止のために保管をしていたに過ぎない。

寮における電気代、水道代の実費はもともと寮生の自己負担であって原告が負担すべきものではない。部費から寮の電気代補助、水道代の支出というのはバスケットボール部員が自らの金員を自己が負担すべきものに充てたに過ぎない。

加えて寮は、本来被告が用意すべきバスケットボール部の部室も兼ねていたのであって、部費から電気代などの補助が出ていたとしても何の不思議もないし、寮全体の電気代は八万円前後であるが、常に原告が二ないし四万円を支払っているのである。軽油代についても、原告が個人として二〇万円の支払をしていることからすれば、原告が部費を流用したものでないことは明らかである。

(三) 懲戒事由3について

確かに、学友会予算申請の際、不備があったことは認めざるを得ないところではあるが、平成四年度の備品費として三七万五一七三円を支出しているのであって、予算四三万円のうち大半は実際に備品費として使っているのである。

よって、原告は学友会予算から正当でない利益を取得したことはないのである。

(四) 懲戒事由4について

原告は、バスケットボール部員が在学中家庭の事情その他で経済的困難に立ち至った場合でも大学を卒業できるようにとの配慮から学生本人名義の通帳を作って保管していたものであって、監督の立場として学生のために行っていたものである。この場合学生本人は勿論、その親の了解もとっているのであって、単に学生のみを指導したわけではなく、本来何ら問題とはなり得ないはずのものである。その当時より経済的に困難な学生からは預かっておらず、また途中で経済的に困難となった学生には返還しているのである。また、印鑑は通常学生が保管していた。

(五) 懲戒事由5について

バスケットボール部OBで第一八期卒業生の矢野宗男氏が交通事故により昭和五六年五月一二日に死去した際、その両親より生前の感謝という趣旨で金三〇〇万円を寄付されたものである。これは大学に寄付したものではなく、あくまでも原告が矢野宗男氏を指導教育したことへの感謝としてなされたものであり、その使途はバスケットボール部の為として限定を付されてはいるが、原告個人に対して寄付されたものである。

確かに矢野基金の運用規則は作成されていないが、原告は矢野氏にその使途を随時報告していたものである。矢野基金の一部を留学生のために使うことは寄付者たる矢野氏の趣旨に沿うものであり、又、留学生の修学費や生活費に名を借りて原告が個人的に使用したことはない。

(六) 懲戒事由6について

被告は、原告が留学生に対して学費及び授業料を免除する約束を行ったと主張するが、原告には学費及び授業料を免除する権限はないのであり、「免除の約束」などできるはずもない。留学生との約束は留学生試験を受けて合格することを条件に、学費や授業料については原告において特待生に推薦する手続をとったり、原告が負担する等して留学生に負担させないとする原告の個人的約束にすぎないのである。

留学生は入学試験に合格して初めて入学しうるにすぎないし、現に留学生たる元、金は試験を受けて二年編入で合格したものであるから、職制を乱す等被告の学園の秩序維持に相当の支障があったとはいえない。

(七) 懲戒事由7について

スポーツキャンディーは試合の時に部員に食べさせ、コンディショニングのために使用していたものであり、恒常的購入とはいえない。

キャンディー及びベルトが運動能力を高めることは実証的に研究され、その効果が証明されており、野球部、バレー部その他でも相当使われている。原告の行為にバスケットボール部強化以外の意図は全くない。

2  本件懲戒解雇手続の瑕疵の有無

(被告)

平成五年二月一二日、バスケットボール部幹部が学生課に赴き、同部の問題点を相談してその解決を学生課に依頼した。これをきっかけとして、学生部調査委員会及び教養部調査委員会において、原告の事情聴取が行われ、

同(ママ)年五月二六日の教授会では教養部調査委員長が調査結果を口頭で報告し、教授会として、原告の責任について「講師降格、一年間の授業担当の停止が相当である。」との決議がなされ、学長に報告された。

右教養部教授会の決議を受けて理事会の下に賞罰委員会が設けられ、原告から二回にわたって事情聴取を行うなど、更に事案の調査が進められたが、同年九月二二日、新たに明らかにされた事実に基づいて教養部教授会で再審議された結果、原告を教員として不適格と認める旨の決議がなされた。

同年一〇月一二日、賞罰委員会において原告の懲戒について慎重な審議が行われた結果、懲戒解雇の処分案が理事会に答申され、同月一八日、右答申を受けた理事会において審議された結果、原告の懲戒解雇が決定された。

同日、右懲戒解雇の辞令を読み上げた上、懲戒事由書とともに原告に交付しようとしたが、原告がその受領を拒否したので、同日、両者の内容を内容証明郵便とし、配達証明付きで原告に送付した。

(原告)

被告は今回の発端を「平成五年二月一二日バスケットボール部員から原告に対する苦情が学生部に対し、申し述べられたことから調査を開始した」とし、学生としては福島雅紹(ママ)、ジョン・スコラスタインの二名であるとするが、実際は学生課の方から右両名を呼び出して事情聴取を行って、その中で学生から不満の訴えがあったと虚偽の事実を捏造し、その後の教授会の調査委員会もこれを前提としている。

また、被告就業規則四九条が「懲戒処分は賞罰会議の審議の後、理事会の議を経て理事長が行う。賞罰会議に関する規程は別に定める。」としているにもかかわらず、賞罰会議に関する規程は定められていない。原告に対する本件懲戒解雇に先だって賞罰会議が開催されているが、右賞罰会議は無原則に組織され、運営されたとみられてもやむを得ない。

右のような調査委員会及び賞罰会議を前提とする本件懲戒解雇は適正手続に反する違法なものである。

3  本件懲戒解雇が懲戒権の濫用にあたるか否か

(原告)

原告は、教授として講義実技の教育と研究活動を続け、これまでに三三本の論文を発表しているが、その数は同大学教養部体育センターの中ではトップであるのみならず、その企画においても主導的役割を果たしてきた。原告は教授としての責任を果たしてきており、そこに教員不適格事由は全く認められない。

今回被告が挙げている懲戒解雇事由のほとんどは原告がバスケットボール部監督として行ったことに関するもので、教員としての行動に関するものではない。そして、監督としての行動に関しては原告は平成五年四月二日同部の監督を辞任するという形でその責任をとらされていることからすれば、今回の処分はいわば同一内容で二重の処分をするものであり、濫用的処分である。

また、仮に懲戒事由に該当する事実があったとしても、本来原告に対してその善処方を申し入れれば改善される性質のものばかりであるから、処分も注意処分等段階を追ってなされるべきところ、過去に明確な処分もないままに突如として懲戒解雇することは懲戒権の濫用にあたるというべきである。

(被告)

原告は、職権を濫用し、職制を乱し、公私を混同して不当な利益を得た行為や、教育者として適格性を欠く行為によって、学園の秩序維持に著しく支障を生ぜしめ、バスケットボール部部員学生及びその父母の不満を買い、学園の名誉を傷つけたものである。

原告は大学教授として社会的地位も高く、被告においても指導的地位にある者であるから、その勤務の在り方には高度の品位と高潔さが要求されるにもかかわらず、原告の右行為にはこれらの点に欠けるところが多い。

原告は、昭和六三年度育英奨学金に関し、今回同様バスケットボール部学生の貯金通帳と登録印鑑を自ら所持していた事実があり、学生課から注意を受けている。また、原告が当時のバスケットボール部部長林力教授から部の運営について注意を受けながらこれを改めないため、同教授が平成五年三月九日同部部長を辞任した。更に、このころから教養部教授など教職員から原告の非違を指摘する声が大きくなったが、原告は反省の実を示していない。

以上に述べたとおり、懲戒権の濫用を認めるべき事情はない。

第三争点に対する判断

一  本件懲戒解雇事由について

1  本件懲戒解雇事由について

(一) 懲戒事由1に関する事実

前記争いのない事実及び証拠(<証拠・人証略>)によれば、以下の各事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(1) 原告の北斗荘購入等

原告は、九州産業大学助手であった昭和四一年四月にバスケットボール部の監督に就任し、同部の指導強化を開始したが、同四八年から同五〇年ころにおいては森永荘という宿舎に下宿生である部員のみを集め、これらの部員を中心に強化を検討したが、全寮制ではなかったため下宿生と自宅通学生の関係が良好でなかったこと、下宿生については昼食が不規則で栄養状態が不良となる場合があること等の問題があった(<証拠略>)。

そこで、原告はバスケットボール部を全寮制とすることを検討し、同部OBであり、OB会元副会長である八尋豊城(以下「八尋」という。)が大学の裏に土地を所有していることから、同人に寮建設の協力を依頼したところ、八尋はこれに応じ、昭和五二年四月二八日、同人が右所有地上に北斗荘を建築してこれを所有するに至った。

昭和五三年ころ、八尋に資金需要が生じたため、同人が北斗荘を手放すこととなり、当時助教授であった原告は、部員の指導強化を継続するために、同年五月二七日、八尋から同人所有の右土地及び北斗荘を代金三五三一万円で譲り受けた(<証拠略>)。

原告は、右購入代金調達のために銀行から三〇〇〇万円を借り入れたが、右購入の際には、経費として約一〇〇万円を要しており、差額の約六〇〇万円を自己資金で賄っているが、右銀行からの借入金は昭和六〇年四月に返済を終了している(<証拠略>、原告本人)。

また、原告は、北斗荘購入時に、既に備え付けてあった洗濯機、乾燥機並びに食堂設備調達等のために八尋が負っていた約四〇〇万円の債務を引き受けた(原告本人)。

(2) 北斗荘の運営等

原告は、バスケットボール部を全寮制とし、原告が北斗荘を購入した昭和五三年ころから、部員を同所に居住させていたが、右当初から現在に至るまで寮規定又は入寮契約書は存在していない。平成元年ころには北斗荘の老朽化が進んだこと及び大学が北斗荘所在地を含む周辺土地の買収計画を有しているとの話があることから、同部OBの佐原安俊に依頼して同人が経営する浜男寮(以下、単に「浜男寮」という。)を改装してもらい、平成二年には浜男寮で全寮制を維持した(<証拠略>)。

その後、大学による右用地買収計画が後れることが分かったため、北斗荘にも部員を居住させることとなり、北斗荘については平成三年に各部屋を改装し、同四年には水周りの改装修理を行ったが(<証拠略>)、後記((二)(3)<2>北斗荘関係)のとおりその費用の一部が部費から支出されたが、原告も右のうちの一部を負担していると認められる。

原告が北斗荘を購入した後、当初の寮費は前所有者八尋の設定にしたがっていたが(原告本人)、その後値上げを行い、平成四年度においては、一か月当たり寮費五万六〇〇〇円(内訳は栄養費三〇〇〇円、部屋代一万五〇〇〇円、雑費五〇〇〇円、食費三万三〇〇〇円)、電気代三〇〇〇円の計五万九〇〇〇円ずつを、毎月五日に部員の個人口座から引き落とす方法で徴収するとともに、平成四年度入学者からは右寮費に加えて入寮費五万円を徴収していた(<証拠略>)。寮費については毎月若干の滞納者がいたものの、そのほとんどが一か月程度の遅れにとどまっていた(<証拠略>)。また、電気代については一人当たり三〇〇〇円では不足するため、北斗荘に付設された四台の自動販売機の収入から一か月当たり三万円を補充している(<証拠略>)。

北斗荘は六畳部屋二一室を中心とする総計二八室及び食堂等の附属施設を備えており、部員は二段ベッドを使用して六畳部屋一室を二人で使用していた(<証拠略>)。食事については三食付きが建前であったが、寮母の田中澄子(以下「田中」という。)は平成四年当時七〇歳を超える高齢で頻繁に買出しに行けなかったため、二週間に一回の割合で部員が田中を車に乗せて大量の買付けをし、田中において一日三食分の副食を準備していたものであり、右大量買付けのために夏には傷んだ食材を使用した副食が用意されることがあったほか、休暇中は月、水、金の各曜日に田中が二日分の副食を準備していたというのが実態であった。朝食と夕食については、部員のうち下級生が当番となり、田中が準備した副食を利用して食事の準備をしていた。北斗荘の食事内容については、原告が田中に任せきりにしていたため、平成四年度においては、原告は必ずしも実態を把握していなかった(<証拠略>)。

原告は北斗荘が個人資産であるとの認識から、北斗荘の決算書を作成していないが、右(1)のとおり北斗荘購入時の銀行から借入金を昭和六〇年四月には完済しており、原告がバスケットボール部監督を辞任する直前である平成五年三月三一日付のH4年度北斗荘収支報告書(<証拠略>)によれば、未済の灯油代を考慮に入れても年間約四二万円程度の赤字にとどまっている。原告は、右収支報告書中に賃借料名目で月々計上されている三五万円が、バスケットボール部としての浜男寮への支払であると主張するが、浜男寮には四名しか居住しておらず、一人当たりの寮費相当額は八万七五〇〇円となってしまい不合理であるから、右原告の主張は採用できず、北斗荘の経営は相当程度良好であったと推認すべきである。

なお、北斗荘の近隣における下宿代の平均は、二食付一人一部屋使用で、四畳半三万七三九六円(調査対象一一四室)、六畳四万一四九九円(調査対象四七四室)である(<証拠略>)。

(二) 懲戒事由2に関する事実

証拠(<証拠・人証略>)によれば、以下の各事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(1) 部費の設定

バスケットボール部の部費は、全体の予算である同部の年間活動費から大学の援助金を差し引き、これを部員数で除した個人負担分から、各部員の父兄が負担する父兄後援会費を差し引いた額が基準とされていた。

右年間活動費には、遠征に必要とされる大会参加料及び移動費等の諸経費はもとより、親睦会費、研修費、通信費等バスケットボール部としての活動全般に関連する費用が含まれることが前提となっている(<証拠・人証略>)。

バスケットボール部には、主将、寮長、マネージャーその他四年生の役職者によって構成される幹部会が存在していたが、幹部会の運営に関する規則等は存在せず、練習後のミーティングがこれを兼ねていたというのが実情であり、幹部全員が集まることもまれであった(<人証略>)。部費の決定も幹部会によってなされる建前となっていたが、平成元年度及び二年度に一人当たり年間一〇万円とされていた部費が、同三年度以降二〇万円とされた際、部員数が減少したということ以外に原告から説明がなされなかったこと(<証拠略>)、及び、その額も部員にアルバイトを強いることが前提となる高額なものであることから、部費の実質的決定権は原告にあったものと認められる。また、平成二年度からは新入生部員からもアルバイト代名目で金員を徴収しており、右徴収額は同年度及び同三年度八万三〇〇〇円、同四年度一五万円となっていた。右年額部費の他、平成二年度以降は「特別アルバイト代」として臨時部費を徴収しており、その額は同年度四七万八四〇〇円、同三年度五七万六三一五円である。同四年度については、「部員アルバイト代(H4)」として一五三万九〇〇〇円の決算額及び三六万一〇〇〇円の未収金が計上されており、これが部員のうち新入部員を除いた九人分であることから、一人当たりの年額部費は二一万一一一一円となり、少なくとも右のうち二〇万円を超える部分は臨時部費に当たると認められる(<証拠略>)。

(2) 部費の徴収等

右(1)のとおり決定された部費の徴収は四年生部員であるアルバイト主任又はマネージャーという役職者が行うが、原告が決定したアルバイト先を通知された右役職者が派遣人員等を調整し、アルバイト代については三月一〇日ころまでに、直接又は右役職者を通じて原告に渡され、同人の銀行口座で管理されていた(<人証略>)。

また、部費からの支出のうち、遠征時の宿泊費や交通費等の比較的高額なものについては、原告が自ら支払を行っており、それ以外のものについては、主務等部の幹部が、原告に対して「経費支払願」を提出し、これに従って原告が必要額を渡していた(<証拠・人証略>)。

(3) 部費等の使途

<1> 決算報告書の作成

バスケットボール部の決算報告の作成は、主務が担当していたが、平成四年度の決算報告書は、同五年三月二〇日から同年四月一〇日までの間、当時の同部主務福島雅紹(ママ)(以下「福島」という。)が数回にわたって書き直し、最後は原告において作成したものである(<証拠略>)。同年度の決算報告書には、同五年二月二八日現在のもの(<証拠略>)と同年三月三一日現在のもの(<証拠略>)が存在するが、後者は、日付の点からも平成四年度の全容を示すものと考えられるのみならず、原告が前者に対する不備を修正して作成したものであることから(<証拠略>)、正確性についても後者が勝ると考えられるため、以下において同年度の決算報告書は後者(<証拠略>)を前提とする。

<2> 北斗荘関係

バスケットボール部の決算項目は多岐にわたるが、平成元年度決算報告書支出の部に計上されている「通信費、電話代、電気代補助費」(三四万六一二八円)の電気代補助費に相当する部分、並びに、同二年度及び三年度の「電気代補助費」(二年度一二万六五八八円、三年度二〇万七七四七円)、「水道代」(二年度六万四九八六円、三年度七万五九四四円)はいずれも北斗荘の経費と認められる。同四年度においても「電話、水道、電気代」との項目で四八万四六二九円が計上されており、右のうち水道代及び電気代に相当する部分が北斗荘の経費と認められる。また、平成三年度において「寮補修費」として計上されている四万七九九三円、及び、同四年度における「町費、会費」のうち町費に相当する一万円も北斗荘の経費というべきである(<証拠略>)。

<3> 消耗品費

バスケットボール部の決算報告書には、平成元年度に「消耗品費(ガソリン、雑費など)」が計上され、同二年度以降も「消耗品費」が計上されている。平成四年度の「消耗品費」については、「五四〇〇〇〇(二二一八五二)」とされているが、右記載は五四万円のほかに未払分二二万一八五二円が存在することを意味するものと考えられる(<証拠略>)。

平成元年度の決算報告書における記載からすれば、右消耗品費は、ガソリン、軽油代等の燃料費と認められ、右はその後の各年度においても同様であると考えられるところ、同四年度については、原告は九州産業大学付近の太平石油株式会社香椎バイパス給油所(以下「本件給油所」という。)との間で、九州産業大学バスケットボール部名義で、軽油、灯油、洗車代等の掛売取引を行っていたものである。右掛売取引の内訳は車台番号によって特定され、バスケットボール部として使用するステーションワゴン(車台番号<略>)について一五万一八五三円、原告の自家用車(車台番号<略>)について一三万四〇二〇円、灯油、軽油、ガソリン、バイクオイル、自動車部品その他の購入分(車台番号<略>)のうち、灯油分として五三万二九一一円、その他の分として三万二一八七円となっている。右のうち、灯油分五三万二九一一円は北斗荘の燃料費であると考えられ、原告の自家用車燃料代一三万四〇二〇円の一部は原告個人の燃料代と認められる(<証拠略>)。

原告は、本件給油所に対し、平成四年度中に、九州産業大学バスケットボール部燃料代として合計五四万円(同年一〇月二五日に二〇万円、同五年二月二五日に二〇万円、同年三月二五日に一四万円)を支払う一方、平成四年一〇月二五日に、個人分として二〇万円を支払っている(<証拠略>)。右各支払の趣旨は必ずしも明確ではないが、右個人分としての二〇万円の支払には原告の自家用車の燃料代が含まれるということができる。

<4> 全日本学生バスケットボール選手権大会

九州産業大学バスケットボール部は、平成四年一一月二九日から同年一二月五日にかけて東京において開催された全日本学生バスケットボール選手権大会(以下「全日本大会」という。)に出場し、同部からは登録選手一四名及び主務一名計一五名の学生並びに原告が同年一一月二六日に東京に向けて出発した。

大学は部員一五名分について、JR新幹線往復料金実費及び宿泊費一泊七〇〇〇円を基準として援助金一二九万四八〇〇円を、一人当たり一万円を基準として激励金一五万円を支給した。

しかし、バスケットボール部は一二月一日に敗退したので、大学からの援助は同月二日までとなり、援助金中の三日間分の宿泊代三一万五〇〇〇円の戻し入れを行ったため、援助金は差引一一二万九八〇〇円となった(<証拠略>)。また、監督として同行する原告に対しては、大学から一二万二四〇〇円の出張旅費が支給されている(<証拠略>)。他方、バスケットボール部においては全日本大会に出場する場合、出場選手を含む同行部員から一人当たり一万円の自己負担金を徴収しており(<証拠略>)、平成四年度においても部員一四名から計一四万円の自己負担金を徴収している(<証拠略>)。

平成四年度全日本大会のための支出は一〇一万一三五二円であり、その内訳は新幹線交通費四五万〇八四〇円、宿泊費三三万一五六〇円、その他雑費二二万八九五二円であった(<証拠略>)。激励金は「雑収入」として決算報告書(<証拠略>)に計上されているが、その使途が特に限定されているものとまでは認められない。また、前記支出内訳において雑費とされる部分には、原告の交通費及び食費が含まれており、これらは本来原告に対する出張旅費から支払われるべきものであるが、原告の費用として支出された部分は必ずしも明確でない。右の各事情を考慮して激励金及び原告に対する出張旅費を除外して考えるとしても、前記支出を裏付ける領収書中には、全日本大会出場期間外のものが含まれていることから、右出場に際してバスケットボール部には少なくとも一一万八四四八円以上の剰余金が生じた計算となるが、右剰余金に相当する金員が部費に返還され、又はその一部が自己負担金を徴収された部員に返還されたなどの事情は認められない。

なお、被告は、いすゞ自動車バスケットボール部への宿泊費支払が行われていないにもかかわらず、右支払分が大会経費に計上されている旨主張するが、右支払がなされたとの証言(<人証略>)及びこれを裏付ける領収書(<証拠略>)が存在し、これを覆すに足りるまでの証拠は存在しない。

<5> その他の遠征費

九州産業大学バスケットボール部は右<4>の全日本大会と同様、大阪で開催された西日本大会、熊本で開催された三地区大会への遠征の際にも、それぞれ大学から援助金(西日本大会八〇万円、三地区大会二五万七〇〇〇円)及び監督たる原告に対する出張旅費(西日本大会一三万七七〇〇円、三地区大会四万八七六〇円)が支給されている(<証拠略>)。

監督として遠征に同行する原告に対して出張旅費が支給されている場合、原告の宿泊費及び交通費等の費用は本来右出張旅費の中から支払われるべきことは右<4>のとおりであるが、決算報告書において原告についての費用が部員の遠征に要した費用と区別されていないことも右<4>の全日本大会の場合と同様である。

右の点については、「学生部より上申された報告、並びに平成5年4月29日バスケット父兄会に渡された資料についての反論」と題する原告作成の書面(<証拠略>)において、西日本大会に関し、原告分の宿泊費及び旅行費は経費合計に含まれておらず、飲食費及びタクシー代は必要である旨記載しているが、西日本大会における経費合計は八二万三四〇六円であり、右書面において原告が記載しているところの学生分宿泊費(三九万五三八二円)及び旅行費(一四万二三八〇円)に飲食費・タクシー代(三万〇一二三円)を加えたとしても、経費合計額との間に二五万五五二一円の差額が存することとなる。また、三地区大会については監督経費(二万〇八五〇円)は必要である旨が記載されているのみであり、その内容は必ずしも明らかでない。

<6> 登録料

平成四年度決算報告書においては、支出の部で「大会、行事費、参加料」との項目で、三六一万〇二一七円が計上され、明細(<証拠略>)において登録料が一〇万三〇〇〇円とされているが、このうち三万五〇〇〇円は平成三年度の登録料であり、本来同四年度の決算報告書に計上されるべきものではない(<証拠略>)。

(三) 懲戒事由3に関する事実

証拠(<証拠・人証略>)及び弁論の全趣旨によれば、以下の各事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

平成四年度バスケットボール部決算報告書には、「援助金(大学より)」との項目に備品代四三万円が含まれる旨記載されている。他方、支出の部「備品代」には既払分三七万五一七三円及び未払分一九万六八〇〇円が計上されている(<証拠略>)。

学友会予算は、毎年春休みに各部から見積書を提出して申請し、学友会体育執行部と各部のマネージャーの折衝の中で、各部の前年度実績、部員数、体育会への協力その他の事情を考慮して決定される。右のうち備品代の執行については、各部が必要に応じて見積書を提出して請求し、体育会執行部が「学友会費支出申請書」によって学生課に支出申請することによってその支給がなされる(<証拠略>)。

平成四年度のバスケットボール部の備品代は四三万円と決定されていたが、原告と福島主務で相談の上、全日本大会に合わせて架空の見積書(テーピングテープ一六万三一二〇円、アンダーラップ三万六〇〇〇円、アイスクール一万五六〇〇円、ステッキー二万四〇〇〇円、トレーナーズキット六〇〇〇円、バスケットボール九万一二〇〇円、トレーニングボール九万四八〇〇円)を提出して全額を引き出して(弁論の全趣旨)、原告が右金員を受け取っており(原告本人)、同年度の決算報告書上の処理との関係では、既払分のうちケイジャースポーツ発行にかかる二四万七一七三円の領収証(<証拠略>)の一〇万の位の「1」を「2」と書き換えて辻褄を合わせていることが認められる。

(四) 懲戒事由4に関する事実

証拠(<証拠略>)によれば、以下の各事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(1) 修学費免除の手続

九州産業大学には「特技を有する者(運動技能関係)に対する学費等の一部免除に関する内規」が存在し、右内規によって体育特待生に対する修学費の一部免除が行われていたが、平成四年四月一日からは「九州産業大学運動競技に特技を有する者に関する規程」(以下「特待生規程」という。<証拠略>)によって体育特待生に対する修学費免除の要件及び手続について定めており、右内規は廃止されている。

従前の内規によれば、部長、監督等の推薦に基づき、学長宛に部長名で「体育特待生昇格願」が提出された学生について「体育特待生所属サークル部長会議」(以下「サークル部長会議」という。)で承認されたことを前提に、課長、部長、学長を経て常務理事に至る決済(ママ)を経て右学生を体育特待生とすることが正式に決定されていた。右決定は各年度の六月ころに行われ、特待生の保護者に対して連絡されていたが、四月に払込済みの修学費を還付するために特待生に還付金の振込依頼書を提出させ、保証人たる親又は学生本人名義の預金口座に還付金を振り込むという作業を行っていた(<証拠略>)。

特待生規程制定後は、体育特待生に相当する修学費免除者(以下、右修学費免除者を含めて「体育特待生」という。)に関する審議機関として、学長、各学部長等以下の委員を構成員とする「修学費等免除審議委員会」が設置され、その審議結果を理事会に報告して承認を得ることとなったが、払込済み修学費の還付手続等その他の手続に変更があったとは認められない(弁論の全趣旨)。また、従前から体育特待生の修学費免除は年度毎に審議され、新入生については初年度修学費が対象とされていたところ、特待生規程上は原則として四年間の修学費全額が免除対象とされているが(<証拠略>)、平成四年度以降も従前と同様に年度毎の取扱いが行われている。

(2) バスケットボール部員の修学費免除

バスケットボール部員については、監督たる原告の推薦に基づき、昭和六一年度に四名、同六二年度に三名、同六三年度に二名、平成元年度に四名、同二年度以降平成四年度まで各二名ずつが体育特待生に昇格し、その修学費が免除された(<証拠略>)。

原告は、右体育特待生のうち、神吉弘史(昭和六一年度)、工藤英一(同六二年度)、田中啓文(同)、鮫島哲也(同六三年度)、村上隆宏(同)、野津健司(平成元年度)、本田正昭(同)、堺照美(同二年度)、福島雅昭(同)、寺岡寿貴(同三年度)及び坂本克典(同)に対する各還付金について、同人及びその両親らの承諾を得て、それぞれの部員学生名義の銀行口座に振込を受けさせた上、自ら通帳及び登録印鑑を預かった(<証拠略>)。

右のうち、神吉弘史、工藤英一、田中啓文及び堺照美に関しては、原告において、還付金の入金された普通預金口座を同人らの在学中に解約し、これらを定期預金口座に振り替えて保管していたものであり、更に原告は同人らの在学中にこれらの定期預金を解約して、いわゆる矢野基金の口座に振込入金している(<証拠略>)。このうち神吉弘史及び工藤英一の両名に対する還付金については、あらかじめ原告が個人的に修学費を立替払いしているため、還付金を原告に対する立替金の返済とみることができるが(<証拠略>)、少なくとも田中啓文及び堺照美の両名に対する還付金については右のような事情は認められない。

鮫島哲也及び本田正昭の各還付金についてはその詳細な管理形態は不明であるが、いずれも平成二年度中には同様に矢野基金に入金されている(<証拠略>)。

野津健司の還付金は、同人の在学中に同人の求めに応じて原告から返還されている(<証拠略>)。

堺照美及び鮫島哲也の各還付金については、平成四年度中に学生部から還付金の取扱いに問題がある旨の指摘を受けた後、原告が同人らに還付しており、福島雅昭及び寺岡寿貴の各還付金は、更に後の同五年四月ころ、原告から同人らに返還されている(<証拠略>、弁論の全趣旨)。

村上隆宏及び坂本克典に対する各還付金は、後記(五)(4)のとおりいわゆる矢野基金がバスケットボール部OB会会長松崎安典に引き継がれた平成五年一二月三〇日まで、原告において定期預金として管理しており、右引継ぎ時に矢野基金に組入れられている(<証拠略>)。

(3) 日本育英会奨学金の受領

原告は、昭和六二年当時、バスケットボール部員であり、同年度日本育英会奨学金の受給資格を取得していた宮本茂の右奨学金について、銀行口座を開設した上、通帳及び登録印鑑を預かってこれを管理していた。右宮本は同年七月二〇日ころ同部を退部していたが、原告から退部すれば奨学金は受給できない旨を示唆されていたため、同人は同年九月の資格確認を行わなかった。

大学は原告に対し、右奨学金の取扱いについて注意し、原告は通帳を右宮本に返還するとともに同人の父親に右事情を説明した(<証拠略>)。

(五) 懲戒事由5に関する事実

証拠(<証拠・人証略>)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の各事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(1) いわゆる矢野基金の設立

昭和五六年三月に九州産業大学を卒業したバスケットボール部OB矢野宗男(以下「宗男」という。)は同年四月に浮羽農協に就職したが、同年五月一二日、交通事故のため死亡した(<証拠・人証略>)。

宗男の母である矢野朝子(以下「朝子」という。)は、同五七年二月二五日、右交通事故を原因として支払われた搭乗者保険金三〇〇万円を原告の研究室に持参し、これをバスケットボール部のために利用してもらう趣旨で、当時のバスケットボール部部長山川典宏同席のもと、同部監督たる原告に対して寄付し(<証拠・人証略>)、原告は右寄付金を「九産大バスケットボール部矢野基金白橋眞喜」又は「九州産業大学バスケット部矢野基金白橋眞喜」名義の定期預金銀行口座に入金して管理していた(以下、右各口座における管理金を「矢野基金」という。<証拠略>)。

(2) 矢野基金の管理・運用

原告は、右(1)のとおり定期預金銀行口座において矢野基金を管理していたが、矢野基金への預入れ及び支払等の運用規則は作成されておらず、定期預金の満期毎に新たな預入分を加えるとともに必要分を引き出すという運用を基本としていた(<証拠略>)。

矢野基金設立以来、同基金の運用記録が存しない部分については詳細が判然としないが、平成元年度以降に関する限り、同基金に対する新たな預入は、前記(四)の体育特待生に対する修学費還付金であり、他方基金からの支払は前記(四)(2)で認定した還付金の返還のほか、留学生その他の部員学生の授業料及び生活費その他の費用であった。

九産大バスケットボール矢野基金収支報告書Ⅰ(以下「収支報告書」という。<証拠略>)によれば、平成二年度中に、同三年度入学の坂本克典(以下「坂本」という。)の授業料五七万五九〇〇円が矢野基金から支払われていることとなっているが、右坂本は同年度の体育特待生に昇格し、同年七月一五日に三四万七五〇〇円の修学費が還付されているにもかかわらず(<証拠略>)、右還付金は本件懲戒解雇後である同五年一二月三〇日まで矢野基金に返還されることなく、坂本克典名義の銀行口座で管理されていた(<証拠略>)。

九州産業大学バスケットボール部矢野基金支払明細(以下「支払明細」という。<証拠略>)には、同年一月七日に右坂本の授業料として二二万七九八一円が矢野基金から支払われた旨の記載があり、右は授業料支払額との差額である三四万七九一九円について矢野基金に返還する代わりに、支払時に差し引いた趣旨と考えられるが、右差額は原告が管理していた坂本克典名義普通預金口座に入ったままの状態で、同年八月二一日に定期預金に振り替えられており(<証拠略>)、支払明細の記載中右の部分は信用できない。

また、同年三月一二日には、同年度転入学の留学生部員元炳善(以下「元」という。)及び金榮三(以下「金」という。)の入学金各二〇万六〇〇〇円及び授業料各三七万二五〇〇円の計一一五万七〇〇〇円、同年一二月一〇日には、右各留学生部員の後記授業料各九万四六〇〇円の計一八万九二〇〇円が矢野基金から支払われている(<証拠略>)。右各留学生については、同四年五月二〇日に授業料各三六万円の計七二万円について支払があったが、右両名は同年度の体育特待生に昇格し、同年八月二六日に各三四万七五〇〇円の修学費還付を受けており(<証拠略>)、支払明細においては、右各還付金から手数料三六一円を差し引いた六九万四六三九円と払込授業料額七二万円の差額である二万五三六一円が矢野基金から支払われたこととなっているが(<証拠略>)、収支報告書においては右差引処理はなされていない(<証拠略>)。しかしながら、差引処理を前提としても、右各留学生に関する右授業料を含め生活費その他の費用として合計二一〇万六五四二円が矢野基金から支払われており、この中には西日本大会への遠征の際の自己負担金各一万円が含まれている(<証拠略>)。

更に、平成四年一二月八日には同五年度入学の留学生部員安徳珠(以下「安」という。)及び曺晨榮(以下「曺」という。)の授業料各六五万二九〇〇円の計一三〇万五八〇〇円が矢野基金から支払われているところ、右両名は平成五年度の体育特待生に昇格し、同年七月一二日に各四〇万〇五〇〇円の修学費還付を受けているにもかかわらず、右各還付金は矢野基金に返還されていない(<証拠略>)。

(3) 矢野基金の性質

朝子が三〇〇万円の寄付をした動機として、亡宗男が原告から受けた恩義に報いたいという気持ちがあったことが認められるが(<人証略>)、前記(1)のとおりその趣旨はバスケットボール部のために役立ててもらうことにあったのであるから、右寄付が原告個人でなく、バスケットボール部監督としての原告に対するものであることは明らかである。

原告は右三〇〇万円を原資として矢野基金を設立したが、体育特待生に昇格した部員学生に対する修学費還付金を、右部員の在学中に矢野基金を管理していた定期預金口座に預け入れ(前記(四)(2))、還付金が部員学生又はその保護者に返還された場合においても、利息金は矢野基金に組み込まれたままであるなど、その運用形態を考慮にいれれば、遅くとも右預入れが行われた昭和六一年度以降においては、矢野基金は現役のバスケットボール部員を含む部全体の基金として、同部の責任者において管理されるべき性質のものとなっていたというべきである。

これに対して原告は、朝子の寄付が原告個人に対するものであることを前提として、矢野基金が原告に帰属するものである旨主張するが、右を前提とすれば、原告は、学生又は保証人たる親名義の口座に振り込まれるべき修学費還付金を通帳及び登録印鑑を保管する方法で管理していたばかりか、これを恣に原告個人の基金に組入れて運用していたこととなって不合理であり、右原告の主張は採用できない。

(4) 矢野基金の引継ぎ

原告は、バスケットボール部監督辞任後である平成五年一二月三〇日、同部OB会の会長である松崎安典(以下「松崎」という。)に矢野基金を引き継いだが、右の当時、矢野基金の口座には定期預金二八七万八〇〇三円が存在していた(<証拠略>)。

松崎は、右引継ぎ時に矢野基金の引継口座を新設し、ここに当時まで定期預金として管理されていた村上隆宏及び坂本克典に対する各修学費還付金合計七〇万四一一二円(村上分三一万四九三七円、坂本分三八万九一七五円)を組み入れるとともに、定期預金一〇二万一一〇二円を解約して利息金とともに一〇二万五六四九円を加え、残額は一七二万九七六一円となった(<証拠略>)。

他方、原告は、右同日、坂本の一八か月分の食事代(五九万四〇〇〇円。<証拠略>)、留学生部員元、金、曺及び安の九か月分の食事代及び電気代(一五八万四〇〇〇円。<証拠略>)、元及び金の平成五年分の授業料、遠征自己負担金及び国民保険料(一七万円。<証拠略>)並びに元、金、曺及び安に関する同年五月一四日までの費用のうち矢野基金から支払われていない分(一二万六三五七円。<証拠略>)の総計二四七万四三五七円に対する支払の一部として一六五万円を引き出してこれを受け取ったため、矢野基金の残額は七万九七六一円となったが、平成六年一月四日、残余の定期預金一八五万六九〇一円及び利息金の一八七万六一四九円が振替入金され、最終的な残額は一九五万五九一〇円となった(<証拠略>)。

平成五年四月一日からバスケットボール部部長の地位にあった飯岡正麻は、原告に対し、同六年一月一一日、同月一九日までに矢野基金及び平成四年度決算報告中の時(ママ)期繰越金(八万八二三四円。<証拠略>)並びに右各金員を管理する口座の通帳を返還するよう求めたが、原告は、右繰越金及びその一部(八万五七二四円)に対する利息金(八三三円)の合計八万九〇六七円及び右一部についての郵便貯金通帳を返還したのみで、矢野基金については前記松崎による管理が継続している状態である(<証拠略>)。

(六) 懲戒事由6に関する事実

証拠(<証拠・人証略>)及び弁論の全趣旨によれば、以下の各事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(1) 韓国中央大学校バスケットボール部との交流

バスケットボール部では、チーム強化のために昭和五九年、同六一年と韓国への遠征を実施し、同六三年春には、韓国中央大学校のバスケットボール部が福岡に遠征して九州産業大学のバスケットボール部との交流試合を行ったことを契機として右両大学のバスケットボール部間の交流が始まり、原告が監督の地位にあった平成四年度まで継続した。右交流の遠征交通費は遠征チーム側が負担し、滞在費は招待大学側が負担するという方法で、日本と韓国を交互に開催地として一年に一回の割合で行われた。

右交流が始まった昭和六三年には、原告に対して、韓国中央大学校バスケットボール部の鄭監督から、当時同大学一年生であった元を日本へ留学させたい旨の申出があったが、原告は、九州産業大学バスケットボール部には留学生を受け入れる体制が整っていないとして、右申出を辞退した(<証拠略>)。

(2) 元及び金の留学

平成二年の日本における交流の際、再び留学の話が持ち上がり、韓国中央大学校三年生となっていた元に加えて同大学四年生であった金が候補とされたが、九州産業大学への入学については、スポーツ選手の留学について特別の制度は存在しないため、原告は、元及び金の語学力向上のための指導を鄭監督に依頼した。また、同大学では留学生に対する授業料免除等の特別制度もないため、原告は、元及び金並びに両名を送り出す立場の同監督に対し、個人の立場で右両名の授業料や生活費の面倒をみることを約束した(<証拠略>)。

平成三年二月には留学試験が行われ、元及び金もこれを受験して主として日本語の語学力について審査され、元が韓国中央大学校三年生を修了し、金が同大学校を卒業した段階で九州産業大学の二年生として編入することで合格が認められた。

(3) 曺及び安の留学

学校法人大阪初芝学園初芝高等学校(以下「初芝高校」という。)は平成二年四月に四名の韓国留学生を受け入れ、右留学生らは初芝高校バスケットボール部に所属して選手として活躍したが、右留学生らが日本の大学への進学を希望したため、同高校バスケットボール部監督石橋隆文(以下「石橋」という。)は、平成四年八月ころ、右留学生のうち曺及び安を留学生として受け入れることができるか否かについて原告と話し合った。

同年一一月二九日、原告は石橋との間で、入学金及び学費を免除し、教科書代その他の教材費、食費及び住居費のうち最低限必要な費用並びに備品購入及び遠征に必要な費用は大学において負担し、渡航費及び小遣いのみを留学生本人の負担とするとの条件で、曺及び安の留学生受入れを合意した(<証拠略>)。

しかしながら、原告は右条件に含まれる免除金及び大学が負担する費用に関して大学当局と交渉したことはなかったのであり、既に受入済みの留学生である元及び金についても個人の立場で必要費を負担するとの約束をしていることから、右合意で大学において免除ないし負担することとした費用は原告が個人として負担する趣旨であったものと認められる。

(七) 懲戒事由7に関する事実

証拠(<証拠・人証略>)及び弁論の全趣旨によれば、以下の各事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

原告は、昭和五五年三月三一日、自己の所有地上に店舗住宅を新築し、同五六年二月一九日、原告名義の所有権保存登記を経由した(<証拠略>)。

平成三年三月二七日、右店舗住宅の所在地を本店とし、原告の妻である白橋眞智子(以下「眞智子」という。)を代表取締役として、有限会社北斗商事(以下「北斗商事」という。)が設立された。右北斗商事の取締役には代表取締役眞智子のほかに同人の妹である楢﨑紀子が就任しており、事実上同人ら二名が育毛、発毛等毛髪の健康に関するコンサルティング並びに関連美容機器の販売等を中心として営業していた。また、平成四年ころからは、オリオンプロダクツとの名称で開発されたスポーツキャンディー等の健康食品、スポーツベルト、ビーズ等の健康機器を、オリオンシャイナーという商号で販売していた(<証拠・人証略>)。

原告は、平成四年度におけるバスケットボール部の備品代中にオリオンシャイナーに対する支払として一二万八〇〇〇円を計上しているほか(<証拠略>)、遠征費用中にも一四万八〇〇〇円以上の支払を計上しており(<証拠略>)、大学から援助金及び原告に対する出張旅費が支給されている全日本大会及び三地区大会においてもそれぞれ四万四〇〇〇円及び一万二〇〇〇円の支払が計上されている(<証拠略>)。

原告は、九州産業大学教授の肩書とともに、オリオンプロダクツの広告においてその商品を推奨する旨のコメントを掲載しており(<証拠略>)、大学内においても、他の教員、職員らに対し、折に触れてオリオンプロダクツの商品について宣伝するとともに、購入を希望する者に対しては自ら商品を販売していたものであるが(原告本人)、販売に当たって原告がオリオンシャイナーから利益を得ていたとは認められない。

2  本件就業規則中の懲戒規定の解釈

本件就業規則(<証拠略>)は、教育職員、事務職員の別にかかわらず適用されることとなっており(二条)、懲戒事由についても譴責、減給、出勤停止及び降格(五〇条)と懲戒解雇(五一条)を区別し、懲戒解雇については、五一条で「次の各号の一に該当する従業員はこれを懲戒解雇に処する。但し、情状により処分を軽減することがある。」とした上、同条一号ないし一〇号において類型別に懲戒解雇事由を定めている。

被告は懲戒事由書中に懲戒事由以外の就業規則違反(三条、二四条)を適示しているところ、右のとおり懲戒解雇事由を定める就業規則が存在する本件の場合、被告の従業員に対する懲戒解雇は懲戒解雇事由該当事実が存在することを要件として行うことができるのであって、本件就業規則上の一般的義務違反は、これが就業規則五一条各号の懲戒解雇事由に該当する限りにおいて考慮されるべきものである。

本件懲戒解雇事由においては、適用条項として本件就業規則五一条五号、六号、八号及び一〇号が示される。同条においては、一号ないし四号がそれぞれ無断欠勤、採用時の経歴詐称、無許可での他への就職及び業務上の秘密の漏洩について定め、七号は「前条に基づく処分が数回に及んでも改悛の情が見えないとき。」、九号は一号ないし八号の共犯に相当する行為を定める。他方、五号(「業務上横領、その他背任の行為、不正不当の金品の授受等、勤務を利用して正当でない利益を収得したとき。」)及び八号(「他人に対する暴行、脅迫、教唆、煽動、其の他学園の秩序維持に相当の支障ありと認められる行為があったとき。」)は刑法上の犯罪をその典型としつつ、その条項中に「勤務を利用して正当でない利益を収得したとき」、「学園の秩序維持に相当の支障ありと認められる行為のあったとき」との包括的文言を配しており、右各号がその規定する行為の性質上、採用後の時期及び場面を問わず適用されるものであることからすれば、それぞれ五号は財産上の不正不当な行為、八号は秩序維持に支障のある行為を広く含む規定であると解するのが相当である。更に六号(「刑法上の罪を問われないもので、懲戒解雇を適当と認められるとき。」)及び一〇号(「其の他前各号に準ずる行為のあったとき。」)は、それ自体包括的な定めであるが、右のとおり一号ないし四号に規定する行為がその適用上比較的明確であることからすれば、六号及び一〇号は、主として五号及び八号と重複しつつ、これらに該当するか否かが必ずしも明確でない行為を含み、より広い範囲で懲戒解雇事由を定めたものと解するのが合理的である。

右のとおり、本件就業規則五一条各号は、全体として懲戒解雇事由を広く定める構造となっているが、懲戒規定は組織内部の秩序罰の適用について定めるものであり、合理的解釈によってその適用範囲が狭められる余地があることからすれば、条項中の包括的文言及びそれ自体包括的な条項のために懲戒事由が広く定められていたとしても、懲戒権行使基準として全く機能しないなどの極端な場合でない限り、懲戒規定自体が無効となるものではないというべきである。

3  各事実の評価

(一) 本件懲戒事由書記載の各事実の性質

原告は、本件懲戒事由書に記載された事実は、そのほとんどがバスケットボール部監督としての行為であって、九州産業大学の教授としての行為ではないことを指摘し、原告が右監督を辞任したことでその責任は果たされている旨を主張する。

しかしながら、原告は昭和四一年以来九州産業大学バスケットボール部監督として活動するとともに、右監督としての指導は、同大学教授の立場での研究活動にも色濃く反映されているほか(<証拠略>)、部を強化することを目的として、部への留学生受入れの窓口となるなど、教授の地位を生かして監督としての指導を行っていたと認められることから、原告の監督としての行為は、教授としての行為と評価されるべき面があることは否定できない。

したがって、監督を辞任したことのみをもって、右就業規則上の懲戒解雇事由該当性の有無についての検討を経るまでもなく、原告に対する責任追求の余地がなくなるものではないというべきである。

原告は、本件懲戒解雇が相当性の原則に反し、違法である旨主張するが、この点は具体的な懲戒権行使の妥当性の問題として懲戒権濫用の有無の判断において検討する。

更に、原告は、被告大学内で教員の履歴が偽造されたこと及び教員の業績詐称の疑惑があることを挙げ、これらの問題に関する被告の調査及び処分と本件懲戒解雇との間に不均衡があり、本件懲戒解雇は平等取扱の原則に違反すると主張するが、右の各事例は本件と非違行為又は疑惑の内容において大きく異なり、比較の対象とならないものというべきである。

(二) 各事実の懲戒解雇事由該当性

(1) 北斗荘について

前記1(一)(2)のとおり、寮としての北斗荘は六畳部屋を原則として二人で使用し、食事内容が十分でなく、その準備も部員が当番で行っていたにもかかわらず、一人総額五万九〇〇〇円という高額な寮費を徴収していたばかりか、部費からも水道代、電気代補助費及び町費等本来寮費として徴収すべき費目を支払わせていたものである。

しかしながら、バスケットボール部は全寮制であるから、寮に関する費用を部費等から活動費として支払わせたとしても、実質的には寮費がより高額となるほかには問題はないというべきである。確かに、右実質的に高額となった寮費を前提として、右北斗荘の管理体制を勘案するとともに、銀行からの三〇〇〇万円の借入金を約七年間で完済していること及び四名のみが入居する浜男寮への支払が高額に上ることを参酌すれば、北斗荘の寮費設定が客観的にみて高額であったとの評価ができるものの、右はいわば監督兼寮経営者としての姿勢の問題であり、それが直ちに本件就業規則所定の懲戒解雇事由に該当するとまでは認められない。

(2) 部費について

前記1(二)のとおり、原告は部費の決定権を実質的に有しており、平成三年度以降は年間二〇万円という高額な部費に加えて臨時部費を徴収してこれを管理していたが、その使途については、右(1)のとおり北斗荘の経費に相当する部分があるほか、消耗品費との名目で支払われている燃料代に関しては、原告の個人使用分と混同する形で掛売取引を行っていること、全日本大会への遠征については大学からの援助金の他に部員から自己負担金を徴収、前記1(三)のとおり学友会からの備品代も流用しているが、支出については監督の出張旅費からのものと区別もなされず、剰余金の有無、その額及び処理の結果も不明確であること、全日本大会以外の遠征に関しても同様に監督の出張旅費からの支出部分が明確に区別されていないこと、並びに、その他の費目についても前年度分が計上されていることなどを考慮すれば、右原告による部費を中心とする活動費の管理が杜撰であったことは明らかである。

原告が管理していたバスケットボール部の活動費には、右のとおり、大学からの援助金の他、年額部費、臨時部費及び遠征時の自己負担金という部員個人の支出金が含まれていたのであり、これらが原告にとってバスケットボール部の活動費として委託された他人の金銭であることは明白である。

懲戒事由は組織内部の秩序罰に関する定めであるから、これには刑法上の犯罪以外の非違行為が含まれうるというべきであるが、本件就業規則五一条五号のように刑法上の犯罪を典型例として定める懲戒解雇事由規定の解釈においては、右犯罪の成立が客観的に疑われる状態にあることをもって適用範囲の限界と解するのが合理的である。

原告による部の活動費の管理が右のとおり杜撰であったことは、それのみで原告の横領という刑法上の犯罪の成立を意味するものではないが、右(1)の北斗荘の運営状況と併せ考えれば、客観的に原告の横領が疑われる状態にあったと認められ、右は少なくとも本件就業規則五一条六号及び一〇号に該当するものというべきである。

(3) 備品代について

学友会援助金としての備品代の取得手続に不正があったこと及び右備品代が全日本大会の際に利用されていたことは前記1(三)のとおりである。

右備品代の取得手続に不正があったとしても、別費目への支出が明確であり、各費目の性質に照らして流用に一定の合理性が認められるときは、クラブ活動に関する費目間流用が許容されると考えられるが、原告が部に関する金銭を一手に管理する一方、その流用先についても、原告自身によって全日本大会に関連する費用とされる以上には明確となっていない本件が右の場合にあたるとは認められない。

右備品代はバスケットボール部の活動費の一部となっており、右(2)において既に述べているように、前記1(二)と併せて客観的に原告の横領が疑われる状態にあったものというべきである。

(4) 免除修学費還付金について

前記1(四)のとおり、原告は、昭和六一年度以降、体育特待生に昇格したために修学費が免除された部員学生に対する免除修学費還付金を原則として自ら管理していたものである。原告は、右の趣旨について、在学中に家庭の事情等により修学費の納入に支障を来すに至った場合に、修学を継続できるようにするためである旨主張するが、右部員学生の一部に対する還付金を、その在学中に矢野基金に組み入れていることは、右原告主張の趣旨にそぐわず、右組入れが銀行員の手違いによるものであるとの原告の主張も不自然であり、採用できない。

本来本人への還付が原則とされる免除修学費について、振込口座の指定の段階から原告において管理していたばかりでなく、還付金の寄贈を依頼するという運用には、特に寄贈の任意性確保の観点から問題があったといわざるを得ない。

しかしながら、右運用上の問題があるとしても、これが詐欺その他の刑法上の犯罪を構成し、又は、これらの犯罪行為の存在を客観的に疑わせる状態に至っていたとは認められない。

よって、原告の免除修学費還付金の取扱いが、本件就業規則上の懲戒解雇事由に該当するということはできない。

(5) 矢野基金について

前記1(五)(3)のとおり、少なくとも昭和六一年度以降において、矢野基金はバスケットボール部の基金としての性質を有するに至っていたものであって、前記1(六)のとおり原告が個人として負担を約束した留学生の入学金及び生活費その他の費用を矢野基金から支出していることは、特定の第三者に利益を受けさせる目的で矢野基金の恣意的な運用を行ったものと評価せざるを得ない。

本件就業規則五一条五号は横領、背任を掲げるが、同号の文言からすれば同号は被告の従業員が正当でない利益を収得した場合に適用されるものと解釈できる。右原告による矢野基金の運用は必ずしも自己の利益を図ることを直接の目的とはしていないものと認められ、同号自体に直接該当するとは認められないものの、右のとおり留学生に関する費用の支払は元来原告個人で負担を約束したものであること、その支払額も多額に上ることからすれば、同号に準ずる場合として同条六号又は一〇号に該当するというべきである。

(6) 留学生の受入について

前記1(六)のとおり、原告は元、金、曺及び安の四人の留学生をバスケットボール部員として迎え入れるため、個人で授業料、生活費その他の費用を負担する約束をしたが、右約束が大学として授業料を免除することを意味するものでないことは明らかであり、右各留学生は正規の手続きを経て九州産業大学に入学を許されたものと認められる。

右約束に基づく金銭援助の具体的な方法に問題があったことは右(5)のとおりであるが、右は矢野基金の運用上の問題として既に評価されているところである。

本件就業規則五一条八号は、暴行、脅迫、教唆、煽動を例示し、学園の秩序維持に相当の支障ありと認められる行為に適用される規定であり、事実行為によって秩序を乱す行為又は右を惹起させる行為を予定していると認められる。原告の留学生に対する援助の約束は、事実行為によって秩序を乱し、又はこれを惹起するものではないから、同号に該当せず、これに準ずるものとも認められない。

他方、仮に現在被告において留学生の生活費を負担している事実が認められるとしても、右は被告において任意に対応すべき性質のものであり、原告の右約束と因果関係を有すると認めることはできない。

(7) 北斗商事及びオリオンシャイナーについて

前記1(七)のとおり、原告は同人の妻眞智子が代表者となっている北斗商事及びこれと関連するオリオンシャイナーの商品を部費又は大学からの遠征援助金で恒常的に購入したほか、右商品を大学内で希望者に販売し、教授の肩書とともに右商品の広告に推奨のコメントを掲載したものであるが、右(6)の本件就業規則五一条八号に(ママ)解釈を前提とする限り、原告による右各行為が同号に該当しないことは明らかである。

(三) 評価のまとめ

以上のとおり、前記1で認定した原告の各行為のうち、大学からの援助金としての備品代及び部員からの年額部費を含むバスケットボール部活動費たる部費の管理並びにバスケットボール部の基金たる矢野基金の管理が公私を混同した杜撰なものであったことは、懲戒解雇事由である本件就業規則五一条六号及び一〇号に該当すると認められる。

二  本件懲戒解雇手続について

証拠(<証拠・人証略>)によれば、以下の各事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

1  賞罰委員会

被告においては、理事会によって、楢崎理事長、柳ヶ瀬学長、友野常務理事、西岡教養部長、飯岡学生部長、板谷教授及び平松事務局長を委員とする賞罰委員会が設置されて、平成五年六月七日に第一回賞罰委員会が開催され、教養部調査委員会の調査結果の報告並びに教養部教授会における協議の内容及び原告に対する処分に関する採決の結果について報告が行われた(<証拠略>)。

同月一〇日には、第二回賞罰委員会が開催されて、原告の弁明が行われるとともにバスケットボール部OB会松崎会長外一名から事情聴取した内容について松岡学生部事務部長から報告された(<証拠略>)。

同月一六日、七月一九日、八月一二日及び九月一〇日に第三回ないし第六回の賞罰委員会が開催され、対応等について検討された後、同月一三日の第七回賞罰委員会では再度原告の弁明を聴取した(<証拠略>)。

その後、<1>当初原告が昭和六三年と説明していた北斗荘購入に際しての借入金の完済時期が同六〇年であったこと、<2>原告が韓国からの留学生の受入に際して、入学金及び学費を免除する等、大学の関知しない約束を交わしていたこと、及び、<3>右留学生の入学金及び修学費の一部について矢野基金から支払がなされ、右留学生の修学費免除金が還付されたにもかかわらず、これが矢野基金に返還されていないことがそれぞれ判明したとして、同月二二日の教養部教授会で原告の処分に関する再度の投票が行われ、三二票中二五票によって教員不適格との採決がなされた(<証拠略>)。

同月二七日の第八回賞罰委員会では右教養部教授会の内容が報告された(<証拠略>)。

同年一〇月一二日の第九回賞罰委員会において、委員全員の一致で原告に対する懲戒権行使として同人を懲戒解雇することが了承され、その旨が理事会に上申されることとなった(<証拠略>)。

2  理事会の決定等

被告は、平成五年一〇月一八日に理事会を開催し、理事長から賞罰委員会の理事会への上申内容及びこれを決するに至った経過について説明がなされ、審議の結果理事全員の一致で原告に対する懲戒権行使として同人を同日付で懲戒解雇することが了承された(<証拠略>)。

被告の楢崎健次郎理事長は、右理事会の結果を踏まえ、本件懲戒解雇をなしたものである(<証拠略>)。

3  本件懲戒解雇の手続的瑕疵の有無

就業規則四九条は「懲戒処分は賞罰会議の審議の後、理事会の議を経て理事長が行う。」としており、賞罰会議の所管事項に懲戒処分が含まれることは明らかであるが、就業規則上その構成員及び手続等関連事項についての定めはなく、同条において「賞罰会議に関する規程は別に定める。」とされている。しかしながら、被告において賞罰会議に関して定めた規程は存在しない。

本件懲戒解雇を決するに際しては、理事会において賞罰委員会が組織されており、右委員会が就業規則にいう賞罰会議に相当すると考えられるが、右賞罰委員会は、理事長、九州産業大学学長、常務理事のほか、学生部の調査グループ、教養部の調査委員会及び教養部教授会の各責任者である飯岡学生部長、板谷教授及び西岡教養部長並びに平松事務局長を構成員としており、これらは理事会の中心人物及び大学の長たる学長に原告に関する問題の調査経過に通暁した者を加えたものと認められ、その構成員の選定には合理性が認められる。

更に、右賞罰委員会に至る経過において、教養部調査委員会及び教養部教授会において、それぞれ原告に対して弁明の機会が与えられるとともに、調査委員会においてはバスケットボール部幹部からの事情聴取も行われており、一連の手続は真相解明に向けられた相当なものであったと評価できる。

賞罰委員会では、右調査及び教養部教授会での採決結果を踏まえつつ、再度原告の弁明を聴取しているものの、その後新たに判明した事情については弁明の機会を設けていないが、右教養部による「教員不適格」との採決後には理事長と原告が面談しており、実質的に弁明の機会が用意されていたと認められる(<証拠略>)。

原告は賞罰会議に関する規程が存在しないことをもって、本件懲戒解雇手続が違法である旨主張するが、懲戒処分が理事会の議を経て理事長によって行われるものであることは就業規則上明らかであり、賞罰会議は理事会に対する諮問機関として位置付けられるものである。右のような性質を有する賞罰会議は案件に応じて適宜構成、運営される必要があり、実際に開催された賞罰会議の構成員の選定及び運営が恣意的に行われた結果、被懲戒者にとって不利益なものとなった等特別の事情がない限り、右規程の不存在のみによって懲戒権行使自体が違法となるものではないと解すべきである。

本件においては、右のとおり、賞罰委員会の構成員の選定並びに右委員会及びこれに至る調査等を含む一連の経過のいずれにも合理性があり、これらが恣意的に行われたとは認められないから、本件懲戒解雇が手続的瑕疵により違法となるものではない。

三  懲戒権の濫用について

1  懲戒解雇に際しての懲戒権濫用の有無

懲戒は組織内部の秩序罰であり、客観的見地から社会通念上合理的と考えられる限り、懲戒権行使が裁量の範囲を逸脱して違法となるものではないと解するのが相当である。

しかしながら、懲戒権行使としての解雇は、組織体から被懲戒者を排除する効果を生じ、多くの場合被懲戒者の生活手段をはく奪する結果となる重大なものであるから、このような懲戒権行使は特に慎重に行われることが要求されるところ、右懲戒権行使が社会通念上合理的と認められるためには、懲戒解雇事由に該当する被懲戒者の行為の原因、性質、態様、結果及びこれが当該組織の秩序に与える影響のほか、被懲戒者の処分歴等諸般の事情を勘案しても、被懲戒者を組織から排除することが真にやむを得ないと考えられることが必要である。

2  本件懲戒解雇における懲戒権濫用の有無

前記一3(三)のとおり、大学からの援助金としての備品代及び部員からの年額部費を含むバスケットボール部活動費の原告による管理が杜撰であったこと並びに原告が同部の基金を恣意的に運用していたことは、本件就業規則五一条が定める懲戒解雇事由のうち同条六号及び一〇号に該当するものである。

しかしながら、原告の右各金員の管理が杜撰であったことの原因は、原告がバスケットボール部に関する支出を、その原資となる収入の性質に応じて個別に整理していなかったことにあり、特に悪質であるとは思われない。原告がバスケットボール部の監督として全寮制を採用し、同部の寮である北斗荘の購入費、改修費を負担したこと、韓国からの留学生等選手として能力の高い学生を部に受け入れるため、修学費等の援助を個人的に約束したことなど、その遠因となる事情はいずれもバスケットボール部の強化を目的としたものである(原告本人)。

また、矢野基金が原告によって恣意的に運用された原因は、同基金が原告個人への寄付であるとの同人の誤った認識にあると認められるが、同基金の当初の性質は必ずしも明確ではなく(<人証略>)、原告が右のような認識を有するに至った事情についても全く理解できないというわけではない上、その使途の多くは留学生等一部の部員学生に対する援助であり、運用の結果として原告自身が利得した事実は認められないばかりか、原告は右のほかに、個人的に部員学生に対する援助を行っており、その総額は一〇〇〇万円を超えている(<証拠略>)。

右の各事情に加えて、原告がバスケットボール部の監督を辞任することで一定の責任をとっていること、及び、原告に対しては、過去に明確な形で懲戒権が行使されていないことを勘案すれば、原告に対する懲戒権行使として懲戒解雇を選択することは酷に過ぎ、本件懲戒解雇は社会通念上合理性を欠く違法なものというべきである。

四  原告の賃金

1  原告は、本件懲戒解雇当時において、被告から、月額五八万二三〇〇円(本俸五三万九三〇〇円、扶養手当二万八〇〇〇円、住宅手当一万五〇〇〇円)の給与のほか(争いのない事実)、夏期、冬期及び春期の各手当のほか、入試手当を支給されていた(<証拠略>)。

被告は冬期手当が賞与と位置付けられており勤務成績に応じて決定される旨主張するが、右手当は本俸を基礎として計算した上で支給されるという取扱いとなっており(<証拠略>)、原告が本件懲戒解雇のために労務を提供できなかったことは明らかであるから、右懲戒解雇を違法とせざるを得ない本件においては、原告に対する冬期手当の支給も認められるべきと解するのが相当である。

原告の賃金請求のうち、本件口頭弁論終結後に支払期の到来する部分は将来給付を求めるものであるが、将来における原告の月額給与及び各手当(以下「給与等」という。)のうち、各手当の具体的な額は確定したものではないから、原告の月額給与に限って認容すべきである。

よって、原告の給与等の請求については、被告が、原告に対し、本件懲戒解雇のなされた平成五年一〇月一八日から本件口頭弁論の終結日である平成一〇年二月四日までの間、毎月二五日限り、月額五八万二三〇〇円宛の給与並びに毎年一二月末日限り冬期手当、毎年三月末日限り春期手当、毎年四月末日限り入試手当及び毎年七月末日限り夏期手当の支払を求めるとともに、右の後である平成一〇年二月分から、毎月二五日限り、右同額の月額給与の支払を求める限度でこれを認めるのが相当である。原告は、号俸は年度が変わる度に一号ずつ上がるというが(<証拠略>)、被告からの昇級の発令がないのに当然に昇級するとは認められない。

春期、夏期及び冬期の各手当は、平成五年度の冬期手当から同九年度の夏期手当までは各年度毎の妥結実績に基づいて計算すべきであり、同六年度以降の妥結実績に変動がないことからすれば、同九年度冬期手当は前年度の例によって計算するのが合理的ある(<証拠略>)。平成五年度の妥結実績は冬期手当「本俸及び扶養手当の合計(以下「本俸等」という。)×二・九+一九万円」、春期手当「本俸等×一・一七五+一四万五〇〇〇円」であるが、同六年度以降は夏期手当「本俸等×二・一+九万五〇〇〇円」、冬期手当「本俸等×二・九+一八万円」、春期手当「本俸等×一・一七五+一四万円」となっている。もっとも、原告は、右「本俸等」に扶養手当を含めずに計算しているため、本判決においては、原告の計算方法どおり本俸のみを基礎として計算することとする。

2  給与等の額

右1を前提とすれば、本件口頭弁論終結日までに原告に支払われるべき月額給与、夏期手当、冬期手当、春期手当、入試手当の額は別紙認容額明細記載のとおりであり(<証拠略>)、その総額は四七三四万四六〇一円となる。

3  よって、原告の給与等については、原告が、被告に対し、本件口頭弁論終結日以前に支払期の到来した四七三四万四六〇一円の支払を求めるとともに、右のうち平成五年一〇月から同六年三月までに支給すべき分五二四万七七七〇円に対する同六年三月二六日から支払済みまで、同六年四月から同七年三月までに支給すべき分一一〇七万七七七七円に対する同七年三月二六日から支払済みまで、同七年四月から同八年三月分(ママ)までに支給すべき分一一〇九万九七七七円に対する同八年三月二六日から支払済みまで、同八年四月から同九年三月までに支給すべき分一一〇九万四七七七円に対する同九年三月二六日から支払済みまで、並びに、同九年四月から同年一〇月までに支給すべき分五三〇万三六三〇円に対する同九年一〇月二六日から支払済みまで、それぞれ年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、平成一〇年二月以降、毎月二五日限り、月額給与五八万二三〇〇円の支払を求める限度において理由がある。

五  結論

以上のとおりであるから、原告の本訴請求は、原告が被告の設置する九州産業大学の教授の地位にあることの確認を求めるとともに、右四の範囲で被告に賃金の支払を求める限度で理由があるものと認められる。

(裁判長裁判官 草野芳郎 裁判官 岡田治 裁判官 杜下弘記)

認容額明細

1 平成5年10月から同6年3月まで 計5,247,770円

月額給与 582,300円×6月=3,493,800円

冬期手当 539,300円×2.9+190,000円=1,753,970円

春期手当 請求なし

2 平成6年4月から同7年3月まで 計11,107,777円

月額給与 582,300円×12月=6,987,600円

夏期手当 539,300円×2.1+95,000円=1,227,530円

冬期手当 539,300円×2.9+180,000円=1,743,970円

春期手当 539,300円×1.175+140,000円=773,677円(円未満切捨)

入試手当 375,000円

3 平成7年4月から同8年3月まで 計11,099,777円

月額給与 582,300円×12月=6,987,600円

夏期手当 539,300円×2.1+95,000円=1,227,530円

冬期手当 539,300円×2.9+180,000円=1,743,970円

春期手当 539,300円×1.175+140,000円=773,677円(円未満切捨)

入試手当 367,000円

4 平成8年4月から同9年3月まで 計11,094,777円

月額給与 582,300円×12月=6,987,600円

夏期手当 539,300円×2.1+95,000円=1,227,530円

冬期手当 539,300円×2.9+180,000円=1,743,970円

春期手当 539,300円×1.175+140,000円=773,677円(円未満切捨)

入試手当 362,000円

5 平成9年4月から同10年1月まで 計8,794,500円

月額給与 582,300円×10月=5,823,000円

夏期手当 539,300円×2.1+95,000円=1,227,530円

冬期手当 539,300円×2.9+180,000円=1,743,970円

(平成9年4月から同年10月までは5,303,630円)

6 平成5年10月から同10年1月までの合計 47,344,601円

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